第1章 無茶な恋
今日の先輩は、私だけのものだと。何処かでそんな事を考えていたんだと思う。
浮かれていたから…バチが当たった。
自分の立場をわきまえず、先輩が引いている線を飛び越えた気でいたんだ。そんなこと出来るはずないのに。
「柊木…顔色が悪いよ。大丈夫かい?」
するはずがないと思っていたその声に思わずパッと顔を上げてしまったのは、まさかこんな時間に誰ががいるとは思っていなかったからだ。
あぁ…どうしよう。また見られたしまった。それどころか今日は酷い有様で…止まらない涙まで流しているというのに。
いつも通りの優しい声。だけど不安を含んだその声は、とても心配そうに私を気遣っているのが分かった。
だけれど、私が顔を上げた瞬間。暗色の切長な瞳は一瞬大きく見開かれ、それして眉間に少しのシワを残した。まさか泣いているとは思っていなかったんだろう。しかもこんなにも盛大に。酷く情けない自信はある。
何で夏油先輩がここに。また任務が遅くまでかかっていたのだろうか…だけど先輩の服装は制服ではなく、上下黒のスウェットだ。もしかしたら飲み物を買いに来たのかもしれない。
私は声を出すよりも先に、慌てて目の周りの涙をゴシゴシと強い力で拭き取るようにして擦れば、その腕がパシっと何かの力によって止められる。