第1章 無茶な恋
今日は私がここに泊まっているのだから、先輩はきっと何処にも行かないはずだ。そう安心してもう一度眠りにつこうとした時だった。
「はぁー、分かった。今から行く」
え……
聞こえてきた言葉に思わず閉じていた目を開く。
今…五条先輩は行くって言った…?
そんなわけない。だって私がここにいるのに。先輩の部屋にいるのは私なのに。
先輩は他の女の人の所へ行くの?私を置いて…違う人の所へ…?それも面倒事が嫌いな先輩が、眠っていたのを中断され怒るどころか会いに行くの?
あまりの衝撃に唖然としていると、どうやら電話を終え先輩が戻ってきたらしく再びギシギシと歩く音が聞こえてくる。
私はそれに慌てて瞳を閉じると、ただひたすら耳を凝らした。
カサカサと布の擦れる音がする。多分、服を着ている音だ。そして、ベッドサイドに置いていたいつも付けているサングラスを手に取ると、自分が抜けたことによりはだけていた布団を私へとそっとかけた。
たいして広い部屋でもないのに、凄く遠くの方でドアが閉まる音が聞こえる。
その瞬間、私の両面からは信じられないほどに熱い涙が次から次へと押し寄せてきた。
私は置いて行かれたのだ。五条先輩のこの部屋に、一人きりで。
悲しくて、虚しくて、惨めだった。
浮かれて、浮かれまくって…本当に…
「……馬鹿みたい」