第7章 不器用な優しさ
「…しないの?」
そう小さな声で聞けば、あっという間に眉間にシワを寄せた五条先輩は、不機嫌そうに眉を歪ませた。
「するわけねェだろ、怪我人相手に」
五条先輩の手が私の髪に触れそれを掬い取ると、そっと耳元へとかけてくれる。その手つきはどこかぎこちなく、そんな動作すらも愛おしいと思うから不思議だ。
私は彼にどこまでも溺れ…そして落ちていく。
あぁ、毎日五条先輩とこんな穏やかな日々を過ごせたら良いのに。怪我をして五条先輩が助けに来てくれた事はもちろん申し訳なく思っているはずなのに、それでも先輩とこんな幸せな時間を過ごせた事に不謹慎だが嬉しく思ってしまう。
あの時死ななくて良かった…
そう心の中で呟きながら五条先輩へとぎゅっと抱きつき、今度は私が先輩の髪へと触れる。
想像よりもずっと柔らかでサラサラとした綺麗な白銀の髪。風に触れるだけでふわふわと舞うそれは、まるで上品な糸のようで全ての者たちを魅了する。
輝く瞳の碧といい、美しい白銀の髪といい、この人はどこまでも人を惹きつけて止まないだろう。
本当に整った顔をしているな。
だけれど私からしたら五条先輩の見た目は、彼を好きな所の後付けにしかならなくて、もっともっと五条先輩を好きな理由はたくさんある。