第5章 抱きしめる意味
だけど自分の部屋を出る前、もう今日は五条先輩の事を考えるのは辞めにしようと思っていたはずなのに…それでもやっぱり彼の事を隙あらば考えてしまっている自分に嫌気がさした。
夏油先輩の優しい声と良い香りが、少しずつ私を眠気に誘い込んでいく。
「おやすみ、柊木」
先ほどまで緊張して死にそうだったというのに…相変わらずの夏油先輩のナチュラルな話術と穏やかな雰囲気にいつの間にか緊張などすっかり消え去っていて。
気が付けばすっかりあくびが出るほどにうとうととし始めていた。
「…おやすみなさい、夏油先輩…」
小さく声が消え入りそうな声がこの静かな空間にポツリと響いた。
私って相当図太かったんだなぁ、夏油先輩に抱きしめられているっていうのにきちんと眠気がやってくるなんて。
いや、もしかしたら…夏油先輩と一緒にいる事があまりに心地良くて私を夢の世界へと連れて行こうとしているのかもしれない。
まぁ何にせよ、夏油先輩には感謝してもしきれないな。
そう思いながら薄らと開けていた瞳をゆっくりと閉じた。