第5章 抱きしめる意味
ドキンドキンと未だ胸は緊張の音を上げているが、夏油先輩の穏やかな話し声を聞いていると少しずつ安心してくる。
いや、まぁ…色気たっぷりな良い声が耳元から聞こえてくるだけで緊張するのは間違いないのだが…
しかも夏油先輩に抱きしめられているからか、夏油先輩の良い香りがいつも以上に私に届いてきて、余計にドキドキしてしまうのも事実だ。
そして何よりも、お互いに好きな人がいるにも関わらずこうして抱き合っているという事実に少なからず罪悪感が胸の中をジクジクとしたもので覆い尽くした。
それなのに…
それなのに五条先輩への思いを一人で閉じ込めていた時とは大違いだ。胸の中は罪悪感でいっぱいなはずなのに…それでも心はどこか軽くていくらかマシなように思えるから不思議だ。
「夏油先輩が辛くなった時は、私にすぐ言って下さいね」
いきなりそうポソリと呟き夏油先輩を見つめる私を、先輩は一瞬キョトンとしたようにして視界に入れた後「分かったよ、その時は慰めて貰おうかな」とゆっくりとした口調で言葉を落とした。