第1章 無茶な恋
そもそも先輩と手を繋ぐなんて初めてだ。離したい訳がない。
だけど、もしも前を歩いている3人にこの場面を見られたら、きっと面倒事が嫌いな五条先輩は私との関係を辞めてしまうかもしれない。
そう思うといくら先輩の気まぐれで手を繋いでくれただけであっても、手放しで喜べなかった。
むしろ、いつ3人の誰かがこっちを振り向くんじゃないかとソワソワとした気持ちが落ち着かなくて、せっかく五条先輩と初めて手を繋いだというのにドキドキと共に変な緊張感で終始心臓が落ち着かなかった。
「今日、部屋で映画でも観るか」
「へ?」
「観たいのあるし」
「あ、うん。観る!観ます!!」
「じゃあ、一度戻ったらすぐ俺の部屋来いよ」
「うん!」
これはやっぱり夢なのか?普段なら五条先輩がこんなことを言うなんて滅多にない。まぁ時々、ほんとーに時々観たいテレビがあるからとか、やりたいゲームがあるからと身体を繋げる以外の時間を2人で過ごすこともあるが、それはいつも呼び出されて行ったらそういう流れに偶然なったってことが多くて。
だからこうして、あらかじめ誘われるようなことは初めてだった。元々今日の夜会う約束はしていたが、こうしてセックス以外の誘われ方をするのは初めてだったのだ。
だから浮かれていた。
心底浮かれて、馬鹿みたいに浮かれきっていた。
あの時の私に教えてあげたい。自分はセフレでしょって。それ以上でもそれ以下でもないでしょって。浮かれるな、自分の立場を考えろって…そんな事嫌と言うほど分かっていたはずなのに。
馬鹿な私は現実から目を逸らして、とにかく浮かれまくっていた。