第5章 抱きしめる意味
「ずっと彼女の事を見てきたからね、その想いの強さもどれだけ相手を好きなのかも分かっているんだ。それでも彼女を好きなのを辞められない。そこは少し柊木と似ているかもしれないね」
「でも、夏油先輩が想いを伝えたら意識しない人はいないと思います」
それは素直な意見だった。だってこんなにも男前で優しくて非の打ち所がない夏油先輩なのだ。この人に好かれて意識しない人などいるのだろうか。
「ふふ、それはどうかなぁ。そもそも私は、多分異性として意識すらされていないから」
夏油先輩を異性と意識しないなんて…そんなのありえる?そんな人が本当にいるなら会ってみたいものだ。
「でもそれでも良いんだ。私は彼女の側で彼女を少しでも支えられるなら、それで十分だから」
真上から聞こえてくる夏油先輩の声は、心底優しくて…そしてそれは何処か少し切なげに聞こえた。
「…夏油先輩は、その人の事が本当に好きなんですね」
夏油先輩はそんな私の小さく消え入りそうな声に、少しばかり微笑んだ後。
「あぁ…好きだよ、凄くね。自分でもどうしようもないほどに、彼女の事が好きなんだ」