第5章 抱きしめる意味
それなのに震える自分の身体が恨めしくて情け無い。
ギリギリと奥歯を噛み締めながら強く強く身体を抱き締めれば、パタンという音がして慌てて顔を持ち上げた。
ドアの先にはトレーを二つ持った夏油先輩が部屋に入ってくる。
どうしよう…また夏油先輩にこんな顔を見られちゃう。私は慌てて立ち上がると少しだけ俯いた顔のまま部屋に入ってきた夏油先輩に頭を下げた。
「夏油先輩すみせん、ちょっと具合悪くなっちゃって…やっぱり今日は帰ります」
これ以上夏油先輩に甘えられない。何処までも馬鹿で何処までも情けないこんな自分をこれ以上夏油先輩に見せたく無いからだ。
きっと私にまた何があったと知れば、優しい夏油先輩は間違いなく私に手を差し伸べるから。だから私は今すぐにでもこの部屋から出なくちゃいけない。
私はそのまま夏油先輩の返事を聞く事なく、深々と頭を下げると先輩の横を急いで通り過ぎた。
謝罪は今度改めてしよう。夏油先輩本当にごめんなさい。自分勝手な己の行動が嫌だ。キライだ。それでもこのまま夏油先輩の部屋にいて先輩に迷惑をかける方がもっと嫌だし、察しのいい夏油先輩の前でなんでもない振りなんて出来そうもなかった。