第8章 Rose
「今行っても、何も咲いてねぇだろ」
「それでもいいの」
リヴァイはローズを横抱きにして静かに立ち上がった。
ローズの体は驚くほど軽い。母の体も、同じように軽かった。
「最期に、あの花畑にあなたといたいから」
それ以上、リヴァイは何も言わなかった。
ローズが望むのならなんでも叶えてやりたかった。そのためならばなんだってしようと思えた。
リヴァイは家を出た。ローズは目を閉じる。きっと、目を開けているのも辛いのだろう。
彼女の心臓を思う。
そこに芽生えた花を思う。
花は、ローズの栄養を吸って育っている。ローズが弱れば弱るほど、花は逞しく育つ。
「花は、なんにもわるくないわ」
リヴァイの心を読んだようにローズは言った。
「こうなることは決まっていた。あたしの中にあるこの花は、こうすることでしか育てない。みんな、生きることにひっしなの」
地下街の人々は黙ってリヴァイたちを見ていた。
いつもは耳を塞ぎたくなるほど騒がしいはずなのに、今は、水を打ったように静かだ。
耳鳴りがする。
リヴァイはローズの声以外、聞くことをやめていた。ローズの言葉だけがあればそれでいい。それだけでいい。
もうすぐ、聞けなくなってしまうのだから。