第8章 Rose
扉が軋んで開く。リビングからは蝋燭の光が溢れている。
いつもと同じように、いつもと同じ光景を辿る。
「ローズ?」
だが、そこにあったのはいつもと違うローズの姿だった。
「ローズ!」
ローズがリビングで倒れている。
夕食の準備をしていたのだろう。床にはスープが飛び散り、鍋が転がっている。その中にうつ伏せになって倒れ込んだローズはぴくりとも動いていなかった。
「ローズ、ローズ!」
叫ぶ。ロールケーキの入った箱を放り投げる。ローズに駆け寄り、その体に触れる。
そっと仰向けにして抱き上げて口元に耳を近づける。微かな息遣いが聞こえた。まだ、生きている。死んではいない。
リヴァイはそのことに深く安堵し、しかし苦しそうに呻くローズの姿は無事とは言えない。
「ローズ、どうした。何があった?」
まぶたが震えて、ゆっくりとローズの両目が開いた。その瞳の中にリヴァイが映り込み、ローズは口を動かす。
「ゆか、よごしちゃって、ごめん、ね」
「床、そ、んなこと今はどうだっていい、ローズ、ローズ」
リヴァイは強く首を横に振った。床なんてどうにでもなる。今はローズのことだけが心配だった。