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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第8章 Rose



「リヴァイ、お願いよ。こんなたくさんの荷物全部残すなんて」

「捨てることのほうが、できない」


 唇を噛み締める。ガキくさいことを言っているのは百も承知だ。だが、それでも。ここだけは譲れなかった。
 ローズの物を捨ててしまったら、それは今度こそ本当にローズとの思い出を捨てることになるような気がしたのだ。

 ローズはしばらく困ったように眉を下げていた。


「じゃあ、リヴァイ」


 静かに歩み寄る。そっと両手が掬い上げられて優しく握られた。柔らかい手だ。あたたかい手だ。
 リヴァイはじっとローズを見つめる。


「あなたに一つだけ、残していくから。だからそれだけを持っていて」

「残す? それだけを?」


 言っている意味がわからず、首を傾げる。ローズは淡く微笑んだ。


「あたしが死んだらわかるわ。それはきっとあたしの代わりになれる。そしてどうか、それだけをあなたの手元に置いていてほしいの」

「ローズ」

「肌身離さず持っていてね。飾っておくのもいいし、しおりにしちゃうのもいいかもしれない。それで、それを見るたびにあたしを思い出して」

「だから、何の話だ」

「わかった、と言って」


 ローズの目は真剣だった。逸らせない圧がある。
 リヴァイは訳もわからないまま頷いた。


「わ、かった」

「ありがとう」


 ローズは満足そうに言って、リヴァイの手を離した。


「じゃあ、片付けの続きしちゃうね」


 そうしてまた忙しげに動き出したローズの背中をリヴァイは黙って見ていた。



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