第8章 Rose
「リヴァイ、お願いよ。こんなたくさんの荷物全部残すなんて」
「捨てることのほうが、できない」
唇を噛み締める。ガキくさいことを言っているのは百も承知だ。だが、それでも。ここだけは譲れなかった。
ローズの物を捨ててしまったら、それは今度こそ本当にローズとの思い出を捨てることになるような気がしたのだ。
ローズはしばらく困ったように眉を下げていた。
「じゃあ、リヴァイ」
静かに歩み寄る。そっと両手が掬い上げられて優しく握られた。柔らかい手だ。あたたかい手だ。
リヴァイはじっとローズを見つめる。
「あなたに一つだけ、残していくから。だからそれだけを持っていて」
「残す? それだけを?」
言っている意味がわからず、首を傾げる。ローズは淡く微笑んだ。
「あたしが死んだらわかるわ。それはきっとあたしの代わりになれる。そしてどうか、それだけをあなたの手元に置いていてほしいの」
「ローズ」
「肌身離さず持っていてね。飾っておくのもいいし、しおりにしちゃうのもいいかもしれない。それで、それを見るたびにあたしを思い出して」
「だから、何の話だ」
「わかった、と言って」
ローズの目は真剣だった。逸らせない圧がある。
リヴァイは訳もわからないまま頷いた。
「わ、かった」
「ありがとう」
ローズは満足そうに言って、リヴァイの手を離した。
「じゃあ、片付けの続きしちゃうね」
そうしてまた忙しげに動き出したローズの背中をリヴァイは黙って見ていた。