第8章 Rose
その日、ローズは部屋にこもってなにやらガサガサと動いていた。いつも通りの金稼ぎを終えて帰ってきても、ローズはまだ部屋の中にいた。
「ローズ、入るぞ」
一応ノックをして、リヴァイはローズの部屋のドアを開けた。
「さっきからなに、やっ、て……」
「ごめんね、リヴァイ。騒がしくしちゃって」
部屋の中を見て、リヴァイはしばらくの間言葉を失った。
ローズが住み始めてそれなりに生活感のあった部屋が、綺麗さっぱいなくなっていた。こまごまと集めていた洋服は袋の中にしまわれ、机の上に置かれていた本は部屋の隅に積まれていた。カーテンは取り払われ、壁に飾っていたドライフラワーもなくなっている。
ドアのそばで立ち尽くしたリヴァイを見て、ローズは困ったように笑った。
「あたしが死んだ後、リヴァイに迷惑かけたくなくて。せめて身の回りの整理くらいはしておこうかなって」
全身が強ばっていた。ローズの気配が確実になくなっていく。その事実はリヴァイの心臓を冷たい手で掴む。
「服は売るなり燃やすなり、あとはだれかに譲ってあげて。本もリヴァイが読むなら残しておくけど……どうする?」
「……ぜんぶ、残す」
「リヴァイ」
「ずっとここに、残しておく」
振り絞った声だった。ローズは悲しそうに眉を下げる。
リヴァイの体は寂しさと悔しさでカッカと火照っていた。