• テキストサイズ

999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第8章 Rose



「ローズ」


 しばらくそこに立ち尽くしていたリヴァイはやがて静かにローズの名前を呼んだ。


「なぁに?」


 いつの間にか彼女は床掃除をしていて、汚れた雑巾を持ったまま振り返った。
 その口元には穏やかな微笑みがある。見慣れた微笑みだ。だが、何かがリヴァイの心をざわめかせた。


「お前は、あと、いつまでの命なんだ」


 初めて出会った時よりも確実にローズは弱っている。
 体調を崩して寝込むことが増え、頻繁に咳をするようになった。時折心臓が痛むのか、胸を押さえることもあった。

 ローズは微笑みを少し引っ込めてから、リヴァイを見た。


「多分あと1ヶ月くらいかな」


 潤いの欠けた声だった。
 リヴァイは息を飲み、きつく目を閉じた。
 
 自分から聞いたにも関わらず、その言葉はリヴァイの柔らかい部分をごっそりと削っていった。
 聞かない方が良かったと思った。あと1ヶ月しか、彼女と共に過ごせないなんて。溢れそうになる涙を必死に堪える。泣きたいのはきっとローズの方だから。


「たまに、胸の奥で何かが蠢く気配があるの」


 ローズはリヴァイに歩み寄り、その手を取った。そっと自分の胸に手のひらを押し当てる。
 リヴァイの右手にローズの鼓動が伝わってきた。それは一定のテンポを保ち、ゆっくりと動いている。普通の心臓と変わらない。


「それは多分、あたしの中で育っている花の芽。開花の準備を始めているんだと思うわ」


/ 77ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp