第8章 Rose
「ローズ」
しばらくそこに立ち尽くしていたリヴァイはやがて静かにローズの名前を呼んだ。
「なぁに?」
いつの間にか彼女は床掃除をしていて、汚れた雑巾を持ったまま振り返った。
その口元には穏やかな微笑みがある。見慣れた微笑みだ。だが、何かがリヴァイの心をざわめかせた。
「お前は、あと、いつまでの命なんだ」
初めて出会った時よりも確実にローズは弱っている。
体調を崩して寝込むことが増え、頻繁に咳をするようになった。時折心臓が痛むのか、胸を押さえることもあった。
ローズは微笑みを少し引っ込めてから、リヴァイを見た。
「多分あと1ヶ月くらいかな」
潤いの欠けた声だった。
リヴァイは息を飲み、きつく目を閉じた。
自分から聞いたにも関わらず、その言葉はリヴァイの柔らかい部分をごっそりと削っていった。
聞かない方が良かったと思った。あと1ヶ月しか、彼女と共に過ごせないなんて。溢れそうになる涙を必死に堪える。泣きたいのはきっとローズの方だから。
「たまに、胸の奥で何かが蠢く気配があるの」
ローズはリヴァイに歩み寄り、その手を取った。そっと自分の胸に手のひらを押し当てる。
リヴァイの右手にローズの鼓動が伝わってきた。それは一定のテンポを保ち、ゆっくりと動いている。普通の心臓と変わらない。
「それは多分、あたしの中で育っている花の芽。開花の準備を始めているんだと思うわ」