第8章 Rose
柔らかいぬくもりに包まれていた。
もぞもぞと体を動かし、ぬくもりを抱きしめる。くすくすとした笑い声が聞こえてようやくリヴァイは目を開けた。
「おはよ、リヴァイ」
優しい声だった。瞬きをする。ローズが穏やかに微笑んでリヴァイを見つめていた。
「……さむい」
だがいまいち目覚めていないリヴァイは口の中でもごもごと言って、ローズの肩に顔を埋めた。
ローズの手が背中に回り、ぎゅっと抱き締め返される。幸せだった。こんなにも穏やかに朝を迎えたことなんてなかった。
「ねぇ、そろそろ起きよう? 朝ごはん作らなきゃ」
「……うん」
「うん、じゃなくって!」
「まだねたい」
「えぇ〜……」
なんとかリヴァイの腕の中から抜け出そうと試みるが、もちろん力でローズが勝てるわけがない。しばらく苦戦していたローズだったが、やがて脱力した。
「朝ごはん遅くなっても知らないわよ?」
「いい」
「そっか」
ため息が聞こえ、諦めたようにローズはリヴァイの胸元に体を収めた。幸せそうな笑い声がくふくふと腹を揺する。リヴァイは無意識のうちに口元をゆるめていた。
お互いに気持ちを伝えてもう1ヶ月が経っていた。
じわじわとローズの命の灯火が消えていくのがわかる。目に見えてローズは衰弱していた。
「お前と、ずっとこうしてられるなら、朝飯はいらねぇ」
リヴァイの言葉にローズは「うふふ」と笑った。
最期の瞬間まで後悔のない日々を過ごせるように。
こうしてゆったりと朝が流れていく。