第7章 Odontoglossum
コトコトと鍋の蓋が揺れる。パンの焼ける良い香りがする。ローズはシチューの味見をして満足気に頷いた。
「ただいま」
器にシチューを入れていると控えめな声がした。
顔を上げるとどこか気まずそうなリヴァイがいた。彼もまた喧嘩のことを気にしているのだ。
「おかえり」
ローズは笑顔を作って言う。顔がこわばっているのが自分でもわかった。
「……この、花」
ダイニングルームに入ってきたリヴァイはテーブルの上に置かれている鉢植えを目にして驚いたように呟いた。
ローズはシチューの火を止めて頷いた。
「うん。綺麗でしょう? 買ってきたのよ」
リヴァイは瞬きをすると、無意識で背中に回していた腕を前に出した。そこには同じ色の同じ花束が握られていた。
ローズはしばらく言葉を失う。
「……リヴァイも同じ花を?」
「あぁ。ローズに、似合いそうだと思って……仲直り、したくて」
最後の方はほとんど聞こえないほど小さな声だった。ローズは目を見開き、そして弾かれたように笑った。それはさっきまでのこわばったものではない。心からの笑顔だった。