第6章 Narcissus
だがそれをそのままこの男に伝えるわけにはいかない。
おそらく、エルヴィンはローズの秘密を知らないはずだ。
「ローズが何を選ぼうとそれはローズの自由だ。君に、彼女を止める権利がどこにある」
これ以上、聞いていられなかった。
エルヴィンは確実に、リヴァイの心の弱い部分を抉ってきたからだ。そんなこと生まれて初めてで、どうするべきかわからなくて。
気づくとリヴァイはエルヴィンに飛びかかっていた。
「リヴァイ!!」
胸ぐらを掴み、拳を振るおうとしたとき、悲鳴にも似た声がリヴァイの体を打った。
投げ飛ばそうとリヴァイの腕を掴んでいたエルヴィンも、彼の頬に握った拳をぶつける寸前だったリヴァイも、同時に動きを止めた。
「エルヴィンさんに、何しようとしてたの」
「ローズ、なんでもない。少し話をしていただけだよ」
厳しいローズの声。それを宥めるようにエルヴィンは言った。
リヴァイはエルヴィンから離れ、ふいっと顔を逸らす。ローズが真っ直ぐ近づいてくるのがわかった。
「話をするだけで、どうして殴り合いにまで発展しかけるんですか」
「騒がせて悪かったね」
言い訳のしようもない、と言いたげにエルヴィンは肩をすくめた。
「……話し合いも終わったし、俺はそろそろ帰るよ。また会おう、リヴァイ」
ゆらり、とエルヴィンを見た。
彼は冷えた目でリヴァイを一瞥し、ローズに微笑みを浮かべて歩いて行った。その背筋はまっすぐ伸びていて、悔しさにリヴァイは歯を食いしばった。