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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第6章 Narcissus



 エルヴィンはリヴァイの殺意剥き出しの感情を前にしても、顔色ひとつ変えなかった。


「もしかして、君がリヴァイか?」


 それどころかリヴァイの名前まで知っていた。
 出鼻をくじかれ、返事が遅れる。


「ローズからよく話は聞いていたよ。彼女と、一緒に暮らしているんだってね」

「よくわかってんじゃねぇか」


 リヴァイにとってローズは、もうこの世で最も大切な存在へとなっていた。誰かに奪われていいものではなかった。
 例えそれが、地上に住む男で、兵士で、リヴァイとは比べ物にならないほどまともな人間だったとしても。


「君の考えていることを当ててあげようか」


 リヴァイは顔をしかめた。
 完全に会話の主導権を相手に握られている。元々リヴァイは舌戦を得意とはしない。育ての親もまた、どちらかといえば暴力を武器に戦っていた。


「君は、ローズが俺に奪われると思っているな?」


 何も言わなかった。しかし、その沈黙が肯定だと捉えたエルヴィンは一度頷く。


「ローズを、これ以上たぶらかすな。ローズに地上のことを教えるな」

「なぜだ? 彼女は知りたがっている。学びたいという思いを君が踏み躙るのか?」

「あいつはっ」


 ローズは、もうすぐ死ぬ。そうと決まっている。
 それなのに、希望を持たせるな。彼女が、地上に行ってそこで生涯を終えたいと願ってしまえば、それをリヴァイに止めることなどできない。
 だがリヴァイは、ローズに自分の腕の中で死んでほしかった。結局また一人になるのなら、せめて。


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