第6章 Narcissus
エルヴィンはリヴァイの殺意剥き出しの感情を前にしても、顔色ひとつ変えなかった。
「もしかして、君がリヴァイか?」
それどころかリヴァイの名前まで知っていた。
出鼻をくじかれ、返事が遅れる。
「ローズからよく話は聞いていたよ。彼女と、一緒に暮らしているんだってね」
「よくわかってんじゃねぇか」
リヴァイにとってローズは、もうこの世で最も大切な存在へとなっていた。誰かに奪われていいものではなかった。
例えそれが、地上に住む男で、兵士で、リヴァイとは比べ物にならないほどまともな人間だったとしても。
「君の考えていることを当ててあげようか」
リヴァイは顔をしかめた。
完全に会話の主導権を相手に握られている。元々リヴァイは舌戦を得意とはしない。育ての親もまた、どちらかといえば暴力を武器に戦っていた。
「君は、ローズが俺に奪われると思っているな?」
何も言わなかった。しかし、その沈黙が肯定だと捉えたエルヴィンは一度頷く。
「ローズを、これ以上たぶらかすな。ローズに地上のことを教えるな」
「なぜだ? 彼女は知りたがっている。学びたいという思いを君が踏み躙るのか?」
「あいつはっ」
ローズは、もうすぐ死ぬ。そうと決まっている。
それなのに、希望を持たせるな。彼女が、地上に行ってそこで生涯を終えたいと願ってしまえば、それをリヴァイに止めることなどできない。
だがリヴァイは、ローズに自分の腕の中で死んでほしかった。結局また一人になるのなら、せめて。