• テキストサイズ

999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第1章 Forget me not



「あ、あり、がとう」


 掠れた声でなんとか振り絞る。
 人さらいたちは金をそのままに逃げたらしい。床にはきらきらと輝く金貨や銅貨が散らばっていた。


「ちっ、また掃除のやり直しか」


 男はそれ以上ローズに言葉をかけることなく、しゃがんで硬貨を拾い始めた。


「あ、あたしも、手伝うわ」


 こうなってしまったのはローズのせいだ。せめて掃除くらいは手伝わなければ。
 男の隣にしゃがみ、せっせと拾い集める。男の持つ袋にぽいぽいと放り込みながら、ローズは男の横顔を盗み見た。

 同い年くらいだと思っていたが、まだ幼い顔つきだ。
 ひょろりと細く小柄。しかし、人さらいを殴り飛ばしたのだからその腕力は凄まじいのだろう。


「……なんだ」


 整った横顔が動いてローズを見る。
 圧のある眼光に圧されながらもローズはなんとか声を出した。


「どうしてあたしを助けてくれたの? お金だけ受け取って売り飛ばしちゃえばよかったじゃない」

「お前はその方がよかったのか?」

「いや、それは……もちろんあなたのおかげで助かったとは思ってるけど。不思議に思っただけ」


 硬貨を拾い終わった少年は立ち上がり、壁に立てかけられていた箒を持つ。人さらいたちの踏み荒らした床を掃き始めた。
 ローズの疑問の答えを探しているかのような間があった。


「別に。ただ……あんな形相で来た奴を無下にできなかっただけだ」


 ぶっきらぼうに少年は言う。ローズは目を瞬かせた。
 無愛想だし、口調は荒いしで生意気な少年なのかと思っていたがずいぶんと……お人好しらしい。

 ローズは思わず笑った。


「ありがとう。おかげで助かったわ」


 心からの礼を言うと、少年はふいっとそっぽを向いてしまった。
 照れ隠しだと思っておこう。


/ 77ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp