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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第1章 Forget me not



 入ったのはどうやら男の部屋らしい。
 ベッドと本棚があるだけの質素な部屋だったが、清潔でホコリひとつない。

 とにかくローズはその場に座り込み、息を整えた。
 この家の住人が良い人なのかは置いておいて、ひとまず命の危機は去ったと考えていいだろう。

 
「おい、ガキ。ここに女が来なかったか?」


 人さらいたちの声がすぐ近くで聞こえた。
 咄嗟に口に手を当てて息すら殺す。


「あ? 知らねぇな」

「嘘をつくな。この家に飛び込むのが見えた」

「ここは穏便にいこう。女を引き渡せば金をやる」


 机の上に重たいものが置かれる音がした。ついで金属の擦れる音も。かなりの金を人さらいは男に差し出したらしい。
 ローズは俯いた。
 見ず知らずの女を渡せば大金が手に入るのだ。それを受け取らない馬鹿はいない。

 ドアの向こうはしばらく無言だった。

 次の瞬間、金の入った袋が地面に叩き落とされた。
 ガシャンッと大きな音がローズの鼓膜を貫く。


「……は?」

「女なんて知らねぇっつったんだ。聞こえなかったのか?」


 ローズは目を見開く。
 男はローズを売らなかった。なぜかは知らないが、大金よりローズを優先させたのだ。


「おいおい。痛い目に遭いたいのか?」

「やれるもんならな」


 再び沈黙。刹那、人を殴る鈍い音がしたと思うとドアが裂ける音が響いた。


「兄貴っ!」


 人さらいの1人が叫ぶ。
 ドアを突き破り、階段を転がり落ちる人さらいの男の様子が容易く想像できた。


「ひっ」

「今朝掃除したばっかりだ。死にたくなけりゃとっとと失せろ」


 男の唸り声にも近い声に、人さらいは完全に負けた。
 荒い息遣いがしたと思ったら、「兄貴!」と叫びながら気配が遠くなっていった。


「終わったぞ」


 呆然としていると、ドアが開いて眉間にシワを寄せた男がローズを見下ろした。


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