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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第6章 Narcissus



「……いいや、なんでもない」


 なんとかそれだけを振り絞り、荒れ狂う心を静めようと深呼吸をした。
 
 大丈夫。何も不安に思うことなんてない。
 必死に自分に言い聞かせる。

 ローズが勝手にどこかへ行くはずがない。
 頭に浮かんだ最悪の可能性を打ち消す。

 ローズと“エルヴィン”はただの店員と客の関係だ。
 そこに何かが起こるわけがない。


「それでね、あたしが地上のことをもっと知りたいって言ったら、手紙のやり取りをしようかって言ってくれたの!」


 ローズは笑って、ポケットから一枚の紙を取り出した。
 そこにはおそらく男の住所と、名前が記されていた。
 流暢な文字だった。書けない言葉が多いリヴァイとは違い、きちんと教養がある人間の書く文字だ。


「ねぇ、リヴァイ。紙とペンって持ってる? さっそくお手紙を出そうと思って」


 リヴァイは返事ができなかった。声にならない言葉が喉元を圧迫して、息も上手く吸えない。
 やめてくれ、と言いたかった。そんな奴と手紙のやり取りなんて。
 だができなかった。


「楽しみだなぁ」


 キラキラと目を輝かせ、幼い子どものように笑う彼女に。
 そんな、己の願望を押しつけることなど。
 できるはずがない。


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