第6章 Narcissus
ローズの様子が変わったことに、リヴァイは気づいていた。
養生生活を終え、酒場へ働きに行った日からだ。
「聞いて、リヴァイ!」
帰ってきた途端、彼女は顔を輝かせて身を乗り出した。
「今日ね、お客さんに調査兵団の人が来たの!」
調査兵団。
地下街に住んでいるとはいえ、それくらいの名前は聞いたことがあった。
地上にいると言われる巨人。その領域に踏み込み、人類を巨人から解放しようとしている連中。ろくな成果もあげず、兵士をただ死なせていることから評判はそれほど良くない。
ローズは久しぶりに地上の人間と話ができたことが嬉しいのか、リヴァイの相槌も聞かずに言葉を続けていく。
「あたしの住んでいた村はウォールマリアの端っこにあったから、本物の兵士なんて初めて見たわ! 彼のしてくれる街の話がとっても面白いの! 例えばね──」
大袈裟な身振り手振りを交えてローズはその“調査兵団の兵士”から聞いたという話をする。その話の途中で、兵士の名前がエルヴィン・スミスということはわかった。
リヴァイをそれを見ながら、今にも椅子を蹴り立ち上がってしまいたい衝動と戦っていた。
気に入らなかったのだ。
ローズが他の男から聞いた話に目を輝かせ、楽しそうにそいつの名前を呼ぶ姿が。ローズの口から語られる話が、顔も知らない男が持ってきたもと思うと、全身に虫唾が走った。
「……リヴァイ?」
相槌すら打たなくなったリヴァイに気づき、ローズは話を止める。
「どうしたの? お腹痛い?」
心配そうに彼女は言う。
子ども扱いをされている、と思った。ローズにとって自分はまだ守られる存在なのだと突きつけられた気がした。
それと同時に、きっとその“エルヴィン”にはこんな言い方をしないのだろうと、気づいてしまった。