第5章 Big blue lilyturf
「ローズ」
母に撫でてもらうことが大好きだった。
そのあたたかな手が、かけてくれる言葉が、ローズにとって宝物そのものなのだ。
「私の愛しいローズ」
村の人々から奇異の目で見られることは辛かった。
ヒソヒソと噂話をされるのは辛かった。
だが、母さえいればそんなことくらい我慢できていた。
「母さんの言うことをよく覚えておくんだよ」
母さえいれば、それだけで。
母は死んだ。
数ヶ月前から体調を崩し、そしてそのまま死んだ。目覚めると、母はもう死んでいた。
「母さん……?」
小窓から朝日が差し込んでいた。
麗らかな朝日。
それを浴びた母の体が僅かに動いた。
「母さん!」
身を乗り出し、体を揺する。息はしていないけれど、まだ生きているのだと思った。
母は目を開けない。
代わりに、心臓から、目尻から、腹から、とにかく全ての皮膚から芽が飛び出した。
「ひっ」
小さく悲鳴を上げてのけぞる。
その芽は服を破り、ぐんぐんと伸びていく。まるで、日を浴びようとしているかのように。
「あぁ、あぁ、これが……」
それはとてもグロテスクでありながら、息を呑むほど美しかった。
母の体を覆い尽くした芽は、ゆっくりとその頭をもたげる。
「これが、」
そうして、水色の花を咲かせた。
「あたしの、運命」
その花の名は、勿忘草。
花言葉は「私を忘れないで」