第5章 Big blue lilyturf
ローズは咳を繰り返し、咳払いをした。
胸の痛みは日に日に長引くようになっていた。その上咳も出て、体のだるさも増えてしまった。明らかに体調不良だ。
買い物袋を抱え、ローズは我が家へ歩いている。
本当はもう少し勤務する予定だったが、あまりにもローズの体調が思わしくないため、早めに上がらせてもらったのだ。
リヴァイはきっとびっくりするだろう。
それと同時に、体調不良のことを話さなくてはならない。あのリヴァイのことだ。しばらくは「養生だ」とか言って、家から出させてもらえないかも。
「ただいま〜」
この不調の原因はわかっている。だが、それを素直にリヴァイに話せるか、と聞かれれば答えは「いいえ」だ。
信じてもらえるとは思えないし、仮に信じてもらったとして、リヴァイの反応は目に見えていた。
「ローズ?」
丁寧に掃除をしていたらしいリヴァイは、帰ってきたローズを見て驚いたように目を見開いた。
そしてすぐに険しい顔つきになる。
「何かあったのか」
「うん、まぁ、ちょっと体調が悪くて」
誤魔化すように笑みを浮かべる。急いでリヴァイに背を向けて、ローズはダイニングテーブルの上に買い物袋を置いた。
「俺の夏風邪がうつっちまったか?」
リヴァイが掃除の手を止めて、ローズの顔を覗き込む。
その目には罪悪感と心配の色があった。
「そんなことはないと思うけど……寝てたらすぐに治るわ」
「寝てるだけじゃダメなんだろ? 夕飯は俺が作る。部屋にいろ」
「え、でも……」
「今度は俺が看病してやるよ」
なぜかウキウキとした声色のリヴァイにローズは苦笑する。
まさかそっくりそのまま言葉を返されるとは思ってもいなかった。
「そこまで言うなら……お願いね」
大人しく従っていた方が良さそうだ。
ローズは自分の部屋へ向かおうとした。
その時だった。
不意に心臓が激しい痛みに襲われた。
気づくとローズは足元からその場に崩れ落ち、意識を失っていた。