第5章 Big blue lilyturf
胸に痛みを覚えたのはつい最近のことだった。
ローズはいつも通りの仕事をこなしながら、胸の辺りをさすった。
テーブルの上を拭き、今夜の夕食を考える。昨日誇らしげにリヴァイが肉を手に入れていたから、それを使うのもいいかもしれない。
「テーブルの準備はできたか?」
「はい! できました」
店主からの呼びかけに答え、グッと背筋を伸ばす。
心臓が気味の悪い痛み方をした。
「大丈夫か?」
顔をしかめ、うずくまりそうになるのを堪えていると、心配そうに店主がローズに近づいた。
慌てて顔を上げて、笑う。
「はい、大丈夫です。すみません」
その胸の痛みはほんの数秒だった。
気のせいだ、と割り切るには長い時間。一つの可能性がローズの頭の中にはあった。
(……母さんも、こんな感じだったんだろうか)
自分の年齢と、母の死に際を思い出し、予感は静かに確信へと姿を変えていく。
(もう、そんな時期)
ため息を吐き出す。
こうなってしまっては止めることはできない。
花が美しく咲き、そして枯れ、散っていくように。
これは逃れようのない事柄だった。
「じゃあ、そろそろ開店するぞ」
「はい!」
だから悩んでいても仕方がない。