第4章 Petunia
ローズが隣に並び、愛おしそうに紙を撫でる。
「もともと小さな村で、あたしたち家族は迫害を受けていたわ。だから母が死んで、あたしは村を追い出された。そしたら人攫いに遭って地下街に連れてこられた。あとは、あなたも知っている通り」
「なんで迫害を? この花は、ローズの母さんから生えているように見えた」
踏み込みすぎだろうか。だが、どうしても知りたかった。
ローズは黙ったまま何も言わない。言うべきかどうか迷っているようだった。
「それは……まだ、秘密」
あ、と間の抜けた声を出したリヴァイに、ローズは笑う。
この話はこれでおしまい、というようにリヴァイの手から紙を奪ってしまった。
「もう少し、先になったら教えてあげる。もう夕食はできたから」
軽い動きでローズは部屋から出て行こうとする。ドアノブに手をかけて、思い出したように振り返った。
「ペチュニアの花言葉はわかったかしら?」
その言葉でここに来た目的を思い出し、慌ててページをめくる。
ローズも最近同じページを開いたのか、それは案外簡単に見つかった。
「“あなたといると、心が安らぐ”」
声に出して呼んで、ローズを見た。
初めて聞く花の、初めて知る花言葉。しかしそれはすんなりとリヴァイの心に入ってきた。
「俺も、ローズがいると穏やかな気分になる」
リヴァイの突然の言葉にローズは目を大きく見開いた。
「さっき目が覚めたとき、ローズがどこにもいなくて焦った。俺を置いて、どこかに行ったんじゃないかって思うと……怖かった」
本当は孤独でいたかった。その方が、失った時のショックを味わう必要がないから。だから、唐突に現れた同居人とは距離を置いておこうと思っていた。
でも、それはできなかった。
「いつの間にか、ローズがいなきゃダメになってたんだ」
今日の自分はとてもおかしい。
こんなこと言うつもりなんてなかった。子供っぽい言葉ばかり口から出てくる。
「だから、ローズ」
きっとこれは熱のせいだ。
「俺のそばにいてくれ」