第4章 Petunia
その紙にはある一人の女性が描かれていた。
ローズが描いたのだろう。右下に彼女の文字で小さく「あたしのお母さん」とある。つまり、この絵の中の人物はローズの母親ということだ。
図鑑をずらして、紙を持ち上げる。
ローズの母親は眠っていた。眠っている横顔だ。穏やかな表情の彼女の周りには無数の花が散りばめられていた。
それらの茎は全て女性の体から生えているように見える。
リヴァイは図鑑を開いた。この花の名前が知りたかった。
人から花が咲くなんて聞いたことがない。だが、これがローズの妄想だと決めつけるには、あまりにもリアルすぎた。
「……勿忘草?」
かつて育ての親に基礎だけ教えてもらっていた文字の読み書きは、ローズが先生となってからメキメキと成長した。今なら多少小難しい文字くらいは読めるだろう。
ザラ半紙に記された名前を読み上げ、添えられたイラストを指でなぞる。
丁寧に着色されたイラストは透き通るような青色。小ぶりな花弁がいくつも集まり咲く姿は美しいものだった。
「花言葉は……」
そのページにだけ、いくつか涙をこぼしたような跡があった。
末尾に記された文字。
「“私を忘れないで”」
不意に背後から聞こえた声に、リヴァイは振り返った。
「ローズ」
「あんまり遅いからどうしたのかなって思って」
ローズは困ったように眉毛を下げて部屋の前で立っていた。
勝手に描いた絵を見られて怒っている様子ではない。ただ、悲しそうだった。
「そこに描いてるのはあたしの母親よ。リヴァイと出会う少し前に死んでしまったの」
改めて、リヴァイはそれを見下ろす。
言われてみれば確かに、どことなくローズの面影を感じた。