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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第4章 Petunia



 その紙にはある一人の女性が描かれていた。
 ローズが描いたのだろう。右下に彼女の文字で小さく「あたしのお母さん」とある。つまり、この絵の中の人物はローズの母親ということだ。
 
 図鑑をずらして、紙を持ち上げる。
 ローズの母親は眠っていた。眠っている横顔だ。穏やかな表情の彼女の周りには無数の花が散りばめられていた。
 それらの茎は全て女性の体から生えているように見える。

 リヴァイは図鑑を開いた。この花の名前が知りたかった。
 人から花が咲くなんて聞いたことがない。だが、これがローズの妄想だと決めつけるには、あまりにもリアルすぎた。


「……勿忘草?」

 
 かつて育ての親に基礎だけ教えてもらっていた文字の読み書きは、ローズが先生となってからメキメキと成長した。今なら多少小難しい文字くらいは読めるだろう。

 ザラ半紙に記された名前を読み上げ、添えられたイラストを指でなぞる。
 丁寧に着色されたイラストは透き通るような青色。小ぶりな花弁がいくつも集まり咲く姿は美しいものだった。


「花言葉は……」


 そのページにだけ、いくつか涙をこぼしたような跡があった。
 末尾に記された文字。


「“私を忘れないで”」


 不意に背後から聞こえた声に、リヴァイは振り返った。


「ローズ」

「あんまり遅いからどうしたのかなって思って」


 ローズは困ったように眉毛を下げて部屋の前で立っていた。
 勝手に描いた絵を見られて怒っている様子ではない。ただ、悲しそうだった。


「そこに描いてるのはあたしの母親よ。リヴァイと出会う少し前に死んでしまったの」


 改めて、リヴァイはそれを見下ろす。
 言われてみれば確かに、どことなくローズの面影を感じた。


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