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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第4章 Petunia



 ドアはそれほど力を入れていないのにあっけなく開いた。


「リヴァイ?」


 驚いたような声がした。その声は今のリヴァイを何よりも安心させるものだった。
 息を弾ませ声の主を見上げる。


「ローズ」


 寝起きの、ガサガサとした声が出る。
 水分を欲していることを今更気づいた。
 ローズは両手に紙袋を抱え、心底不思議そうにリヴァイを見つめていた。


「もう起きて大丈夫なの?」


 優しく問いかけられる。


「あ、うん、」


 息と共に声を吐き出す。頷くが、ローズはわずかに目つきを細くした。


「でもまだ顔色が悪いわ。寝ておいた方がいいんじゃ、」

「いやだ」


 ずいぶん子供じみた返答だった。
 遅れて羞恥がリヴァイの顔をちくちくと刺す。ぎゅ、と無意識に眉間に皺を寄せると、ローズは仕方ない、というように笑った。


「お腹空いてるでしょ? 買い物してきたの。今から作ってあげるね」

「荷物、運ぶ」

「だめ。病人は大人しくしていなさい」


 キッパリと言い切られ、リヴァイは口を閉じた。
 リビングへ歩いていくローズの後を追いかける。

 あれだけ緊張していた体からは力が抜け、安堵感が身を包んだ。
 ローズはリヴァイを置いていなくなったわけではなかったのだ。母や、育ての男のようにリヴァイを置いて、いなくなったわけでは。


「ローズ」


 リヴァイが小さな声で名前を呼ぶと、彼女は振り返る。

 どこにも行かないでほしかった。15にもなってわがままがすぎると思った。でも病人だし、今日くらいは言ってもいいだろう、と心の中で言い訳をする。


「なに?」

「……そばにいてくれ」


 ローズは瞬きを何度かした後、頬を鮮やかな赤に染めた。


「エッ、あ、うん、いいよ。大丈夫そばにいる。うん、そうだよね、風邪の時って心細くなるよね!!」


 パタパタと慌てるようなそぶりを見せ、何かを誤魔化すようにリヴァイに背を向ける。
 リヴァイは首を傾げ、自分の言葉を反芻した。何かまずいことを言っただろうか。

 考えて、告白まがいをしてしまったことに気づいたのであった。


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