第4章 Petunia
ドアはそれほど力を入れていないのにあっけなく開いた。
「リヴァイ?」
驚いたような声がした。その声は今のリヴァイを何よりも安心させるものだった。
息を弾ませ声の主を見上げる。
「ローズ」
寝起きの、ガサガサとした声が出る。
水分を欲していることを今更気づいた。
ローズは両手に紙袋を抱え、心底不思議そうにリヴァイを見つめていた。
「もう起きて大丈夫なの?」
優しく問いかけられる。
「あ、うん、」
息と共に声を吐き出す。頷くが、ローズはわずかに目つきを細くした。
「でもまだ顔色が悪いわ。寝ておいた方がいいんじゃ、」
「いやだ」
ずいぶん子供じみた返答だった。
遅れて羞恥がリヴァイの顔をちくちくと刺す。ぎゅ、と無意識に眉間に皺を寄せると、ローズは仕方ない、というように笑った。
「お腹空いてるでしょ? 買い物してきたの。今から作ってあげるね」
「荷物、運ぶ」
「だめ。病人は大人しくしていなさい」
キッパリと言い切られ、リヴァイは口を閉じた。
リビングへ歩いていくローズの後を追いかける。
あれだけ緊張していた体からは力が抜け、安堵感が身を包んだ。
ローズはリヴァイを置いていなくなったわけではなかったのだ。母や、育ての男のようにリヴァイを置いて、いなくなったわけでは。
「ローズ」
リヴァイが小さな声で名前を呼ぶと、彼女は振り返る。
どこにも行かないでほしかった。15にもなってわがままがすぎると思った。でも病人だし、今日くらいは言ってもいいだろう、と心の中で言い訳をする。
「なに?」
「……そばにいてくれ」
ローズは瞬きを何度かした後、頬を鮮やかな赤に染めた。
「エッ、あ、うん、いいよ。大丈夫そばにいる。うん、そうだよね、風邪の時って心細くなるよね!!」
パタパタと慌てるようなそぶりを見せ、何かを誤魔化すようにリヴァイに背を向ける。
リヴァイは首を傾げ、自分の言葉を反芻した。何かまずいことを言っただろうか。
考えて、告白まがいをしてしまったことに気づいたのであった。