第4章 Petunia
3日後だった。母が動かなくなったのは。
朝起きて、いつものように母のベッドによじ登ったリヴァイは、目覚めない母に違和感を覚えた。頬に触れてゾッとした。氷のように冷たかったのだ。
どれだけ揺すっても、声をかけても母は目覚めない。もう、リヴァイを優しく呼んでくれることもない。
その事実はリヴァイから全ての気力を奪ってしまった。
母が死んだ。いなくなった。自分を置いて。いなくなってしまった。病によって、たった一人の家族が。
喉の渇きでリヴァイは目を覚ました。
瞬きを繰り返して、自分がどこにいるかを理解する。頬には生ぬるい涙が伝っていた。
「夢、か」
呟き、のっそりと上半身を起こす。
体のだるさはかなり軽減されていた。熱も下がっていそうだ。
「……ローズ」
あんな夢を見たせいだ。
無性にローズに会いたかった。彼女の気の抜ける笑顔が見たかった。優しい声が聞きたかった。
ひんやりと冷たい床に素足を下ろして立ち上がる。まだすっきりとしない頭。それでもローズを見つけることが何よりも大事なことだった。
「ローズ?」
だがリビングにも、キッチンにも、部屋にも、彼女の姿はなかった。
薄暗い家の中に一人残されたリヴァイは激しく鳴る自分の鼓動を聞いていた。夢を引きずり、猛烈な嫌な予感が己の体を襲う。うまく呼吸ができなくなって、その場にうずくまってしまいそうになった。
「ローズ」
うわごとのように呟き、勢いのままリヴァイは玄関のドアを開けた。