第4章 Petunia
夢を見た。
それはずいぶん懐かしい夢で、それと同時にひどく悲しい夢だった。
「かあさん」
幼いリヴァイは母の寝ているベッドによたよたと近づく。手には口の欠けた水差しがある。リヴァイには大きすぎるそれは歩くたびに危なっかしく揺れた。
母は息子の声に反応し、ゆっくりと体を起こした。
「リヴァイ」
「お水、もってきた」
一週間前から熱を出していた母は何よりも水を欲していた。
ただでさえ物資の不足する地下街で、リヴァイたちはろくに金も持っていなかった。だからたかが水でも手に入れるのはかなり苦労したのだ。だが、それでも持ってくることができた。
「のんで」
「ありがとう、リヴァイ」
達成感に包まれたリヴァイはえっへんと胸を張る。母はそんなリヴァイの頭を優しく撫でて、水差しを受け取った。
母はずいぶんと痩せてしまった。
誤飲しないように、慎重に水を口に含む母の横顔を眺めながら、リヴァイはぼんやりとそう思う。
リヴァイを産んだことによって、母はよく病に伏せるようになった。出産が彼女の少ない体力を奪ってしまったのだ。
仕事も辞め、頼れる人間も少ない中子どもを育てるのは並大抵のことではない。小さいリヴァイでもそれはよくわかっていた。
「それとね、おっちゃんがパンもくれたよ」
ポケットに突っ込んでいたリヴァイの手のひらくらいのパンを取り出す。
母が働いていた娼館の店主が情けでくれたパンだ。
リヴァイの腹はぐるぐると鳴いていたが、それを食べるべきは自分ではなく母だと判断した。
「母さんはいらないよ。リヴァイがお食べ」
「ううん。びょうきを治すには食べるのがいいっておっちゃんが言ってた。だから、これはかあさんの」
痩せ細った手にパンを握らせる。母は困ったようにそれを見下ろして、リヴァイが一切引く気がないのだとわかると弱々しく微笑んだ。
「ありがとう、リヴァイ。お前は優しい子だね」
小ぶりなパンをちぎり、母はゆっくりと食んだ。そしてもう片方、自分が食べたよりずっと大ぶりな塊をリヴァイに渡す。
「でも母さんは半分でお腹いっぱいだ。残りはお前が食べるんだよ」
お前は大きく育たなきゃいけないんだからね。
母は何よりも優しくそう囁いた。