第3章 Sun flower
店主は残念そうに頷いた。そんな、とローズは眉を下げる。やっとここでの働きにも慣れてきたのに。
その時、気絶していた男が目覚めた。うめいて、のろのろと体を起こす。そして、すぐそばに立つリヴァイを見て女のような悲鳴を上げた。
腕を組み、ぎろりとひと睨みでその悲鳴をやめさせたリヴァイは、難しい顔のままローズを見た。
「……お前は、まだここで働きたいのか?」
迷いを隠そうともしない声だった。
常に即断即決のリヴァイがローズにだけ向ける声。ローズは一瞬考えた。
「たしかに、さっきはすごく怖かった。今日はたまたまリヴァイが助けてくれたけれど、2回もそんな偶然があるとは思えない。でも……」
人と関わるのは怖い。否が応でも故郷でのことを思い出すから。
だが、それ以上にここで働きたいとローズは思っていた。
「あたしはまだ働きたい。1回分しかお給料をもらえないなんて、嫌だわ」
笑って言う。
怖い人もいるけれど、みんなローズのことを認めてくれていた。
“リヴァイのところの女”ではなく、一人のローズとして接してくれる。ローズはその扱いがとても嬉しかったのだ。
リヴァイは悩んだ。それはそれは悩み、やがて組んでいた腕をほどいた。
「わかった」
そして、小さくそう言って、おもむろにローズの横に立つ。
ぐるりと店の中を見渡して、最後に相変わらず床に倒れている男を睨みつけた。
「お前ら、よく聞け」
凛と、よく通る声が響く。全員の目がリヴァイに集まった。
何を言うのだろう、とローズもまたリヴァイの横顔を見る。
「これから先、下心があってもなくても関係ねぇ。ローズに指一本でも触れてみろ」
声を荒げたわけでもない。ただ一言一言を押し出すように発しているだけなのに。その言葉には有無を言わさぬ圧力があった。
「その瞬間、お前らは豚の餌だ」
サァ、と血の気が引く音が聞こえた気がした。
突然何を言っているんだ、この男は!?!?
「ば、」
馬鹿なこと言わないでよ! と言おうとした声は、客の拍手と指笛によって遮られた。