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999本の薔薇〈進撃の巨人〉

第3章 Sun flower



 店主は残念そうに頷いた。そんな、とローズは眉を下げる。やっとここでの働きにも慣れてきたのに。
 その時、気絶していた男が目覚めた。うめいて、のろのろと体を起こす。そして、すぐそばに立つリヴァイを見て女のような悲鳴を上げた。
 腕を組み、ぎろりとひと睨みでその悲鳴をやめさせたリヴァイは、難しい顔のままローズを見た。


「……お前は、まだここで働きたいのか?」


 迷いを隠そうともしない声だった。
 常に即断即決のリヴァイがローズにだけ向ける声。ローズは一瞬考えた。


「たしかに、さっきはすごく怖かった。今日はたまたまリヴァイが助けてくれたけれど、2回もそんな偶然があるとは思えない。でも……」


 人と関わるのは怖い。否が応でも故郷でのことを思い出すから。
 だが、それ以上にここで働きたいとローズは思っていた。


「あたしはまだ働きたい。1回分しかお給料をもらえないなんて、嫌だわ」


 笑って言う。
 怖い人もいるけれど、みんなローズのことを認めてくれていた。
 “リヴァイのところの女”ではなく、一人のローズとして接してくれる。ローズはその扱いがとても嬉しかったのだ。

 リヴァイは悩んだ。それはそれは悩み、やがて組んでいた腕をほどいた。


「わかった」


 そして、小さくそう言って、おもむろにローズの横に立つ。
 ぐるりと店の中を見渡して、最後に相変わらず床に倒れている男を睨みつけた。


「お前ら、よく聞け」


 凛と、よく通る声が響く。全員の目がリヴァイに集まった。
 何を言うのだろう、とローズもまたリヴァイの横顔を見る。


「これから先、下心があってもなくても関係ねぇ。ローズに指一本でも触れてみろ」


 声を荒げたわけでもない。ただ一言一言を押し出すように発しているだけなのに。その言葉には有無を言わさぬ圧力があった。


「その瞬間、お前らは豚の餌だ」


 サァ、と血の気が引く音が聞こえた気がした。
 突然何を言っているんだ、この男は!?!?


「ば、」


 馬鹿なこと言わないでよ! と言おうとした声は、客の拍手と指笛によって遮られた。



 
 
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