第3章 Sun flower
小柄な後ろ姿は、無言で男を殴っていた。男のうめき声は聞こえなくなっていて、時たま骨が折れる鈍い音がする。
「リヴァイっ!」
我に返ったローズは慌てて立ち上がり、彼を男から引き剥がそうとした。振り上げた腕に払われる、と覚悟したがいつまで経っても痛みはない。
「ローズ」
代わりに不機嫌極まりないリヴァイの声があった。
いとも簡単にリヴァイは男から離れ、後ろ姿に抱きついていたローズは自然と尻餅をついてしまった。
「リヴァイ、なんでここに……」
「今日は早く仕事が終わったから来ただけだ。それより怪我は」
聞かれて、首に触れる。痕は残っているだろうが、それ以外に目立った怪我はない。ゆっくり首を横に振ると、張り詰めていたリヴァイの雰囲気が柔らかくなった。
「ローズ、大丈夫か!?」
奥からようやく顔を出した店主は、顔面をべこべこにして床に伸びる男とリヴァイを見比べて、大きなため息を吐き出した。頭を押さえて、ローズたちに近づく。
「悪いな、リヴァイ。ローズを危険な目に遭わせちまったみたいで。これで契約も破棄、か」
「まったくだ。こんなイカれた奴が客だとはな」
「な、なんの話?」
契約? 破棄? 話の意図が読めなくて、ローズは首を傾げた。
「ローズがこの店で働くにあたって、ローズを危険な目に遭わせないって契約をしてたんだよ。ほら、言っただろ? 俺からも働きかけとくって」
「そ、そうだったんですね。知らなかった……」
「知ってたら危ない目に遭ったとしても俺に言わねぇ可能性があるだろ」
ズバッとリヴァイに言われ、ローズは思わず口を閉じた。
最もすぎる言葉だ。だが、まさかそんな契約が裏でされていたなんて。
「……ん? ちょっと待って」
不意にローズはあることに気がついた。
「じゃああたし、もうここで働けないってこと?」
契約は破棄。つまり、ローズを雇う条件がなくなってしまった。元々血ヴァイはこの仕事に否定的だった。ならば必然的にローズは解雇されてしまうではないか!