第3章 Sun flower
「そうじゃなくて、俺は……」
俺は、と続きを探すようにリヴァイは視線を彷徨わせる。
ローズは荒くなった息を整え、体の力を抜いた。
「俺は、お前がそこにいるだけでいいんだ」
やがて彼が発したのは、普段の姿からは想像もつかないほど小さな声だった。微かに揺れていて、自分の言葉に戸惑っているようにも見える。
体を熱くした怒りは瞬く間に鎮火されていく。ぽかん、と口が開いた。
「ローズと暮らすようになって、いつの間にかローズのいる生活が当たり前になっていった。人との別れは辛い、から、だから深く関わるのはやめようと思ってた。でも、できなかった」
すっかり冷めたシチューをリヴァイはぐるりとかき混ぜた。
心ここにあらず、といった様子で、目の焦点も合っていない。ローズに話しているというより自分自身に語りかけているようだった。
「家に帰ったらあったかい料理があって、ただいまとおかえりが言えて、朝早くに起きても、待っていたらお前が起きてくる。人と暮らしていいことなんてひとつもないと思ってたのに」
瞬きをする。長いまつ毛に縁取られたアッシュグレーの瞳が、真っ直ぐにローズを見据えた。
「ローズがここにいることが嬉しいと思うようになった。だから、お前はここにいてくれるだけでいい。それだけでもう恩は返してもらった」
その表情を見て、ローズは「あぁ、」とつぶやいた。
リヴァイは愛に飢えている。
彼の過去は知らない。でも長い間一人で暮らしていたことはなんとなくわかる。まだ、15歳なのに。
なんて返事をすればいいのかわからなくて、代わりに涙が一筋こぼれた。