第3章 Sun flower
だが、一度動き出した口は止まらなかった。
「思えば、あなたと会った瞬間からあたしはあなたに守られてばかり。この家もリヴァイのものだし、お金もリヴァイが危険な目に遭っているからあるわけだし、それに……」
「それに?」
リヴァイは食事の手を止めていた。静かにローズに続きを促す。
伏せた視界には膝の上に置かれた、自分の握りしめた拳があった。
「あたしがこの地下街で怖い思いをせずに暮らせているのは、あなたの名前があるからでしょ?」
地下街でリヴァイの存在は大きかった。
まだ少年なのに、その名を口にするだけで大抵の輩は怖気づくのだ。恐ろしい見た目の男も、リヴァイよりずっと年上の男も、みんなが。
3ヶ月も暮らしていればわかる。地上から突然やって来たローズが地下街に馴染めたのも、一人で歩いても襲われないのも。
みんな、ローズがリヴァイと共に暮らしていることを知っているから迂闊に手が出せないのだ。
ローズは何もかもリヴァイに頼りっぱなしだった。
「だから少しでも恩返しができたらなって思って。それで働いてちょっとでもお金を生活の足しにできたらな、って」
言葉が尻すぼみになっていく。不甲斐なくて、情けなくて、悔しくて、目に涙が溜まった。
「……そんなことで、か?」
しばらくの沈黙の後、ぽつりとリヴァイは言った。
反射的に顔を上げる。カッと顔が熱くなるのがわかった。
「そんなことって、あたし、ほんとに悩んでて──!!」
リヴァイはローズが泣いていることに驚いたのか、目を見張った。
「違う、そうじゃない」
「じゃあ、なんなの!」
声が大きくなった。それが余計に己の心をじくじくと痛めつける。
5歳も年の離れた少年に怒鳴ってどうするのだと、頭の片隅で冷静な自分が言っていた。