第3章 Sun flower
「な、なんでっ!?」
あまりの驚きに、ローズは口に運ぼうとしたスプーンを落とした。
べちゃ、と音を立ててシチューがテーブルに広がる。それを見て、リヴァイは露骨に嫌そうな顔をした。
「これは後で綺麗にしとくから。で、なんで!? あたし、働きたいの!」
「絶対にダメだ」
頑なに首を縦に振らないリヴァイ。
ローズはむぅ、と頬を膨らませた。
「せめて理由くらい教えてくれたっていいじゃない」
変な色をしたじゃがいもにスプーンを突き刺す。(多少変な色でも煮詰めれば大体は食べることができた)
頬杖をついてとんがった声を出せば、リヴァイは大きなため息をついた。まるで駄々っ子を相手にしているような反応だ。
「いいか。まずお前は地下街での暮らしに慣れてない」
「慣れてないって、もう3ヶ月も経ったのよ?」
「たった3ヶ月だ。じゃあ聞くが、変な野郎に追いかけられてお前は逃げ切ることができるのか? 頼っていい連中と頼っちゃいけねぇ連中の見分けがつくのか?」
「んぐぐ……それは……」
リヴァイの言葉を強く否定できない自分が悔しかった。
苦し紛れに視線を逸らす。頭の中で言い訳が回るが、どれも口にはできなかった。負けるとわかったからだ。
「反対に、どうしてそこまで働きたいんだ? 必要最低限の金ならあるだろ」
そう。金はあるのだ。飢え死にしないくらいの金なら。
至極まともなリヴァイの疑問に、ローズは一瞬悩んだ。
素直に話せば働く許可をくれるだろうか? いや、どちらにせよローズは隠し事は苦手な方だった。
スプーンを置き、瞼を伏せる。
「だって、あたし、あなたに何も返せてないんだもの」
言って、やっぱり言わなきゃよかったと思った。
言葉にしたせいで自分の惨めさが顔を出したから。