第2章 珍カップル、有名になる
大寿君が怖がられている存在するなのは知っているし、結構有名な話だ。
けど、あまりこういう風に言われるのは、気分がいいものではない。
彼には、いい部分がたくさんあるのに。
「威圧感凄いし、ずっと怒ってるじゃん。怖すぎ」
「ときめく要素ないわ」
「だよねー。悪そうな男が格好いいってのは分からなくないけど、さすがに柴大寿はないよねー」
ライバルがいないのはいい事だけど、さすがにここまで言われるのは悔しい。
女子がいなくなって、個室から出る。
普段から怒る事があまりないから、この感情をどう表していいのか分からない。
感極まるとはこの事か。悔しいと人は涙が出るのだろうか。
今すぐ、大寿君に触れたい。
私は、私だけは貴方をちゃんと見てるからって。
こんなにも感情が動くのも初めてだ。
私はトイレから出て、足早に教室へ向かう。
教室前に、三ツ谷と大寿君がいるのが見え、また泣きそうになる。
相変わらず噂をする声が聞こえて、胸がザワついた。
「ん? よぉ、。どうした? お前が暗い顔とか珍しいな」
さすが三ツ谷だ。心配してくれる三ツ谷には悪いけど、今の私は大寿君しか目に入らなくて。
「何かあったか?」
私の前に立って、頭を撫でる手も浮かべる笑顔も優しくて、涙が滲む。
私は周りの目を気にする事すらせず、大寿君の腰周りに抱きついた。
「おい、突然どうした?」
心配するように、普段より柔らかい声が頭上から聞こえて、ついに涙が流れた。
「うぅーっ……ひっ、ぅ、好きぃー……私は大寿君が大好きだよぉー……」
「あぁ? 知ってるっつってんだろーが……こんなとこで突然何言い出すんだお前は」
私以上に意味が分からないだろう大寿君が、私を体から引き剥がす。
次から次へと溢れる涙を大寿君が指で拭い、私の顔を大きな手で包み込む。
私は大寿君に両手を伸ばす。
「……あ?」
いまだ泣き止まない私に、大寿君が困惑を見せる。
「抱っこしろって意味じゃねぇの? してやれば?」
後ろから、三ツ谷が言う。
「……っとに、手の掛かる奴だな」
悪態を吐きながらも、私を軽々抱き上げる。逞しく大きな体にしがみつく。
こんな時なのに、いい匂いがする。