第1章 好奇心は恐れをも上回る
そう思ったけど、大寿君の不機嫌そうな顔を見る限りでは、どうやら違ったようだ。
「お前、何言ってんのか、自分で分かってんだろうな?」
「うん、分かるよ? 何で?」
私だって、さすがにそれの意味が分からない程子供じゃない。
けど、詳しいわけでもない。
「どこまでも変な女だな。まぁ、退屈はしねぇけど……。ただ、色々危なっかしいのは気になんな」
「危ない、かなぁ?」
「あぁ、危ねぇな。お前、まさか好きになった奴全員に、んな事言ってんじゃねぇだろーな。大体の奴は下半身で動いてんだぞ。そのうちボロボロにされて捨てられんのがオチだ」
不機嫌そうな顔で、まるでお父さんみたいな事を言う。
「何にでも興味があんのはいいが、考えてから話せ。後……自分を安売りすんな」
凶悪な笑い方でそんな事を言うとは。
頭をくしゃくしゃと撫でられ、メガネをつける為に顔が再び近づいた。
「んな急がなくても、まぁ、そのうち、な……」
こういうのを据え膳と言うのだろうけど、彼はそれをサラリと華麗にスルーした。凄く、紳士だ。
というか、私にそういう魅力がないのかもしれないけれど。それはそれで、女として少し悲しい気もする。
しかし、彼と接すれば接する程、本当に噂が真実とは食い違っているように感じる。
何処から何処までが本当で嘘なのか、更に知りたくなった。
「大寿君て、やっぱり格好いいなぁ……」
「あん? 何馬鹿な事言ってんだ。おら、教室戻んぞ」
自然に手を取られる。
大寿君の大きな手が、私の手を温かく包む。
凄くドキドキする。
少し前を歩く大寿君の歩幅は、私のに比べてだいぶ大きいのに歩きにくくないのは、彼が私に合わせてくれているからだと感じる。
見た目は確かに怖いかもしれない。けど、こんなにも温かくて優しい。
どんどん彼に惹かれていく自分がいる。
もっと色んな彼を見たい。
教室前に着いて、大寿君との手が離れて彼が教室へ入る背中に、言葉を投げた。
「私が興味がある男の子も、好きになったのも大寿君が初めてだよ」
私には彼が初恋だ。
驚いたようにこちらを見て、一時停止している大寿君と扉の間をすり抜けて中へ入った。
自分の席に座って大寿君を盗み見るけど、表情は相変わらず難しい。