第1章 好奇心は恐れをも上回る
片方の口角だけを上げてニヤリと笑い、顔が近づく。
「いいぜ、付き合ってやるよ」
「柴くっ……ンっ……」
冷たい目の彼からは想像出来ないくらい、優しく撫でるみたいなキスに酔いしれる。
短い間しか触れなかった唇が離れる。
けど、私はそれが無性に嫌で、離れていく彼の襟とネクタイを掴んで再び引き寄せた。
「おいっ、何しっ……」
身長差のせいで、彼が多少屈んただけでは届かず、背伸びしないといけないから足が大変な事になる。
だけど、もう少しだけ。
唇を当てるだけのキスに、柴君が少し笑った。
「下手くそだな……。おら、口開けろ」
言われた通りにすると、また柴君との距離が縮む。
「ぅんンっ、んっ……はぁ……ンっ、ふぁ……」
ネクタイを掴んでいた手が握られ、そのまま指を絡められると、体がゾクリと粟立った。
唇から体へ流れる熱い痺れに、シャツを掴む手に力が入る。
キスがこんなにも気持ちいいものだったなんて、知らない。
元々キスという行為がそういうものなのか、彼としているからなのか。
経験のない私には、分からない。
終わる頃には体に力が入らず、柴君に支えられながら辛うじて立っていた。
「柴君は……キスした事、あるの?」
「あん? ねぇけど?」
なくてこれとは、何と末恐ろしい。
「んな事より、その呼び方やめろ。苗字呼びはくすぐってぇ。大寿でいい」
「大寿君……」
静かに何度か繰り返して呼んでみる。何だか、妙に照れてしまう。
「ニヤニヤすんな、気持ち悪ぃな」
「へへへ……」
頬が緩む。
言葉は悪いのに、笑う表情にはあの冷たさはなくて。
この人を知りたいという欲は、どんどん強くなる。
「そうだ、一ついい?」
「ん? 何だ?」
私は恋愛経験がないから、誰かと付き合うなんて事も初めてだ。
だから、勝手が分からない。
「付き合うって、具体的には何をするの?」
私の質問に、大寿君は目だけで空を見る。
「……そうだな……デートしたり、すんじゃねぇのか?」
「デート……なるほど。じゃ、エッチはいつ頃するの?」
「………………あぁ?」
キスはそこまで時間がかからなかった。次のステップはエッチ展開じゃないのか。