第5章 珍カップル、我が道をゆく
その反撃に大寿は、同じように私の両頬を摘んだ。
「堂々と浮気とは、いい度胸じゃねぇかよ」
「ひひゃいっ……ひゃいゆひゃっへ……」
「何言ってんのか分かんねぇわ」
頬を引っ張られながら喋る私に、三ツ谷の呆れた声が届いて、大寿が手を離す。
「大寿だって他の子にデレデレしてるくせに」
「あん? 何の話だ?」
本当に分からないみたいな顔で、眉間に皺を刻んで見下ろす大寿を、私は真っ直ぐ見上げる。
「大寿は私が弟君を撫でるのは許さないのに、自分は可愛い女の子の頭は撫でるんだね」
「だから何の話を……おいっ!」
止める声を無視して、私は歩き出す。
けど、やっぱり逃がしてはもらえないようで、手首を掴まれた。
「離して」
「離すかよ。何怒ってる、説明くらいしろ」
正直、怒っているわけじゃないんだけど、私の態度で大寿が焦ったり困ったりするのを見るのがちょっとだけ嬉しかったり。
けど、一緒にいた女の子の事も気になるわけで。
何も言わずにいる私を、大寿が当たり前のように担ぐ。
抱き上げるのではなく、担がれる体勢だからお尻が丁度大寿の顔の横に来る形になる為、咄嗟にスカートを押さえる。
「ちょっ、パンツ見えるっ……」
「押さえとけ。俺以外の男に見せたら犯す」
「おかっ……!? そんな理不尽なっ……」
大人しくスカートを押さえた体勢で、担がれるという意味の分からない状況に、すれ違う生徒達の視線が容赦なく注がれる。
「ちょっと何あれ、誘拐?」
「しっ! 聞こえるって」
「見るな、見たらヤられる……」
口々にヒソヒソとした声が聞こえるけど、大寿は知ってか知らずか、ただ無言で歩き続けた。
怒らせてしまっただろうか。噂に上がる程暴力的でもないし、滅多に怒らないものの、大寿はたまに感情が読めない時があるから対応に困ってしまう。
三ツ谷が言うには相手が“私”だからと言うけど、本当にそうなのかは定かじゃない。
屋上に連行され、フェンス前のベンチにゆっくり降ろされる。
逃げ場を塞ぐように、大きな体で私を覆うみたいな体勢でベンチに手をついた。
「で? お前は何の話をしてる? 女の頭とかデレデレとか、一体何の事だ?」
言わないと離してもらえないと思うけど、何だか反発してしまう自分もいて。