第5章 珍カップル、我が道をゆく
渡り廊下に響く声。
腕が取れるんじゃないかと思うくらい、腕をブンブン振る男子生徒がこちらに走って来る。
「おー、八戒じゃねぇか、移動教室か?」
「うん、タカちゃんは何し、て……」
八戒と呼ばれた男子生徒は、私に視線を向けるとフリーズしてしまう。
「タカちゃん……もしかして、この人って……兄貴の……」
「おー、よく知ってんな。まぁ、あの柴大寿を尻に敷く、怖いモノなし彼女は、ここじゃ有名だしな」
「……私そんな風に言われてるの?」
尻に敷くなんて、かなり心外だ。
「まー、目立つから仕方ねぇだろ。コイツは八戒、大寿の弟だ。ちなみに、この八戒君はシャイボーイだからあんま近寄ってやるな」
目を逸らしてはチラチラと私を見る姿は、少し可愛い。
「初めまして、です。よろしくお願いします」
とりあえず挨拶だけはしておいた。
こちらを見て相変わらずフリーズしていたけど、突然顔を逸らして頭だけ軽く下げた。
何か母性本能をくすぐるタイプって、こういう子を言うんだろうか。凄く、ナデナデしたくなる。
ウズウスしていたら、突然体を腕に絡め取られる。
見上げると、やっぱり大寿だ。
「八戒、また三ツ谷に絡んでんのか」
「か、絡んでるわけじゃ……」
少し口を尖らせて、そっぽを向くのもまた可愛い。それが顔に出てたのか、大寿の手が私の顎を包むみたいに持って、顔を上げさせる。
ゆっくり触れた唇が、ワザとなのかねっとりちゅぅっと音を鳴らして離れる。
「お前までコイツを可愛いとか思ったんじゃねぇだろーな」
「っ!? か、かわっ……」
「え? 何で分かったの?」
そんなに分かりやすかっただろうか。
というより、お前“まで”とはどういう意味だろう。
照れたような、焦ったような顔で八戒君はあたふたしてしまった。
やっぱり可愛い。
「あー……ちょっとだけ撫でさせて欲しい……」
「駄目だ」
「ブーブー、大寿のケチんぼー」
文句を言ってむくれる私の髪を、大寿は乱暴にくしゃくしゃと撫でる。
「タカちゃん……あんな態度されてるのに、やっぱり兄貴が優しい……」
「大寿にとって、は特別なんだろうぜ」
大寿の両頬を摘んで伸ばすという反撃をしている私。