第5章 珍カップル、我が道をゆく
腕の中に収まらないくらいに、大きなサメのぬいぐるみを抱きしめて、大寿を見る。
「あ、おかっ……」
「金の事言ったら、今この場で身ぐるみ剥がすぞ」
それは非常に困る。何も言えなくなってしまったじゃないか。
私はお礼を言って、仕方なく諦める事にした。
ぬいぐるみを抱きしめて、緩む顔を隠すみたいにぬいぐるみに顔を埋める。
「ふふっ……」
「そんなに欲しかったのかよ。まぁ、喜んでんならいいけどよ」
チラリと大寿を横目で見ると、そっぽを向く耳が少し赤い。
「大寿だと思って、大切にするね」
私は立ち上がって大寿の頬にキスをして、また座る。
何だか今更ながら少し恥ずかしくなって、サメにまた顔を埋めると、耳に大寿の声が届く。
「」
突然名前を呼ばれてそちらを見ると、唇に何かが当たる。それが大寿の唇だと気づいた時には、離れてしまっていて少し寂しい。
近くで大寿の顔が、意地の悪い笑みを貼り付けて私を見つめる。
「あんまそいつばっか構うなよ?」
挑発するみたいにニヤリと笑って、頬を撫でた。
「次どうすっか……」
立ち上がって、こちらを振り向いて差し出された手を取り、私も立ち上がった。
デートも楽しく済んで、数日後の事。
私は大変なものを見てしまった。
「大寿が……浮気?」
私の言葉に三ツ谷が間抜けな声を出す。
「いや、浮気かと聞かれると微妙なんだけどね……でも、頭なんて撫でたりして凄く親しそうで、しかも……可愛かったんだよね、凄く……」
可愛いという言葉より、綺麗とか格好いいと言った方が合うかもしれない。
私より色気だってあったし。
「あの大寿が浮気ねぇ……うーん……あんま想像出来ねぇな」
私だって、そんな事するような人じゃないって信じたいし、信じてはいる。
ただ、頭では分かっていても、つい考えてしまうわけで。
「他校に知り合いの女がいるって話も聞いた事ねぇしな。そもそも、アイツに女の知り合いがいる事自体が想像出来ねぇ」
確かに、学校にいる時も女子といるのを見た事はない。
だから余計にあんなに親しい女の子が誰なのか、どういう関係なのか気になる。
「つーか、本人に聞け……」
「おっ、タカちゃーんっ!」
三ツ谷が反応する。