第4章 柴大寿を尻に敷く女
前髪を撫で上げられ、目を閉じる。
「ん……大丈夫だよ。ちょっと疲れが抜けてないだけだから。ほら、私元々体力あんまりないし」
「無理させちまったな……悪い……」
素直に謝る大寿君が珍しくて、呆気に取られている私の隣で、三ツ谷の小さな声が聞こえる。
「大寿を謝らせるとか、お前マジですげぇな……」
何が凄いのか全く分からないけど、肌に触れる大寿君の手の温もりが心地よくて、その感触に酔いしれるように目を閉じたまま、頬を擦り寄せる。
体がフワリと浮いて、突然の事に咄嗟にしがみつく。
「保健室連れてってやるから、ちょっと寝てろ」
呆れている三ツ谷に挨拶して、大寿君は私を抱き上げたまま、歩き出す。
「ふふ、大寿君は過保護だなぁ。大丈夫だよ?」
「っるせぇ……後、君はいらねぇ」
照れたように目を逸らす大寿君に、また私の悪戯心に火が着いて、首に抱きついて耳に口を寄せる。
「ふふ、大寿……」
「っ!?」
囁いて笑うと、大きな体がビクっとして、私を抱き上げている手に力が籠るのが分かった。
「テメェ……覚えとけよ……。何なら今からでも、ぐっちゃぐちゃに、抱き潰してやろうか?」
「ほーんと、大寿っておバカさんだね。私がそれを喜ばないとでも?」
大寿の意地の悪い笑みと、脅しのような言葉をあしらうように、私も笑って挑発する。
どんな時だって、私が彼と肌を重ねる事を、嫌がるわけないのに。
「生意気な口だな……」
「んっ……」
ゆっくり唇を塞がれ、それに応えるように受け入れた。
さすがに保健室には先生がいて、そこでというわけにはいかなかったし、自分が思っていたより疲れていたのか、よく眠ってしまっていて、気づいたら放課後だった。
人のいる気配がして、目を覚ました私は目だけでそちらを見ると、椅子に座って大寿が本を読んでいた。
「……いつから、いたの?」
「ん? 目ぇ覚めたか。来たのはさっきで、何回か様子見には来てたがそんな長くいたわけじゃねぇ」
本を閉じて、私の前髪を撫で上げる。
「だいぶ顔色よくなったな。気分は?」
「うん、大丈夫」
体もだいぶ軽くなったし、眠気もダルさもほとんどない。髪を撫でる手が気持ちよくて目を閉じる。
「まだ眠いなら寝てるか?」
優しい声音に耳を傾ける。