第4章 柴大寿を尻に敷く女
大寿君の唸るような低い声が響く。
「テメェ等……俺がまだ応えてもねぇのに、何勝手に入って来てんだ……」
ピリっとしたような空気だけど、私にはそんな事どうでもよかった。
自分勝手なのは承知だ。でも、今は彼の意識を自分に向ける事だけしか頭になかった。
「うぅーっ……そんなのどうでもいぃー……。ひ、ぅっ……大寿君が私の話聞かないならもーいいぃーっ! 帰るぅーっ! ばかあぁーっ……嫌いぃーっ……」
ほとんど投げやりになりながら、再び暴れる私を簡単に捩じ伏せる大寿君。
「……とりあえず落ち着けっ……あー、クソッ……どうすりゃいいんだっ……」
抱きしめられて、背を撫でる大寿君の手は優しい。
こんなわがままで面倒で迷惑でしかない私を、どうやったら大寿君が好きになんてなってくれるだろう。
今私がしている事は、大寿君の言葉の最後の部分からでも分かるように、彼に好かれる要素が全くない事に、妙に冷静になって来た頭がはっきり自覚し始めて、肝が冷える。
嫌だ。嫌われたくない。
好きになって欲しいのに、私には圧倒的に恋愛スキルが、女としての何かが足りない。
「ごめっ、なさっ……ぅ、ひっ、嫌いに、ならな……でぇ……嫌いなんておも、ってなっ……好、きぃー……」
再び泣き出す私を、やっぱり優しい手で宥めながら、抱きしめてくれる。
縛られたままの手で、大寿君の胸元辺りのシャツを握りしめて、頭を擦り寄せる。
「分かったから……もういいから、泣くな……」
背中を撫でながら、頭を更に抱きしめるようにしてそのまま頭にキスが落ちる。
こんな女に、大寿君はどうしてこんなに優しいのか。
好き過ぎて、どうにかなってしまう。
「柚葉……兄貴が……人に……女に、優しい……」
「貴重な存在だ……あの人……大事にしよう……」
存在をすっかり忘れていたけど、扉が閉まる音がしたから多分気を使ってくれたんだろうか。
後でちゃんとお詫びをしないといけない、なんて思っていたら涙は引いていた。
少しの間、私達はそのままいたけど、泣き過ぎて私の意識は薄れて行った。
微睡みの中、身動ぐ私の額が何かに当たる。
ゆっくり目を開くと、大寿君の胸板があるのが見えた。
自由になっていた手を、体に刻まれた印に這わせる。