第17章 忘れられない水曜日 中編
『俺はお前をも超えるヒーローになる!』
(俺の目の前に立った勝己が真っ白な空間全体に響き渡るような声でそう言った。
……。叶……った?
一瞬ただの俺の都合の良い空耳だと思った。でも何度も何度も勝己の声が頭の中に鳴り響く。心臓が高鳴るのと同時に色んな感情が溢れ出た。
この感情を止められない、止めることが出来ない
そうなんだ……これが……ライバルってやつなんだな?!)
……。
一心はクスッと笑った
「……勝己は俺をすくい上げてくれたんだよ」
「……。なるほど〜…ね?つまりクソを下水で煮込んだ性格じゃないと言うことか〜」
その言葉に一心は目を丸くさせ「げ?!え?!?!」と言葉を詰まらせた。
「ってこれ瀬呂の質問に答えられてない気が……」
一心はタハハ……と笑うと瀬呂も
「確かに性格のフォローの方が正しいかも?」
と言いながら笑った。
「まぁ、人気出るって言いたいのは分かった。ちなみにだけど爆豪は何て言ってくれたわけ?」
「それは〜……」
そう言いながら一心はいたずらっぽく笑い「内緒♪」と答えた。
「え〜?内緒かぁ……それじゃあさ!」
突然瀬呂の雰囲気が変わった。いつもより低い声を出し、耳元でこう言った
「左腕の事も内緒なわけ?」
瀬呂の顔は真剣だった。一心は目を丸くさせ、驚きのあまり笑って誤魔化す事が出来ず「…なんで?」と言葉を漏らした。
その時、相澤の声が車内に響いた。
「もう着くぞいい加減にとけよ…」
一心を除く一部の生徒が「ハイ!!」と返事をした。瀬呂もいつも通りの声で返事をする。まるで何事も無かったかのように……
一心は座席に座り直し、動揺で乱れた感情と思考を必死に整える
(正直瀬呂にそんな事を言われると思わなかった…。気持ち悪いって思われたかな…迷惑だと思われたかな…イレイザーヘッドに言われちゃう…かな)
モヤモヤとしているとバスは停車した。
「着いたぞ、全員降りろ。忘れ物すんなよ」
相澤がそう言いうと皆はゾロゾロと順番にバスを降りていく。
(とにかく…早くバス降りちゃお)
一心はゆっくりと立ち上がろうとした時、突然髪をワシャワシャと撫でられた。顔を見てみると瀬呂が笑っていた。
「さっき言いそびれたけど、あんま無茶すんなよ!」
それだけ言いスタスタとバスを降りていってしまった。