第17章 忘れられない水曜日 中編
(きゅ、急に飛び出してあの笑顔はダメだろ……ッ!!火照り顔もそうだがッ!!しかもフルネームを突然はッ!!グ"ゥ"ッ"!!)
飯田は胸の前で拳を作り、必死で色んな感情をひとまず胸の奥深くに押し込み深呼吸をすると一心の後ろをついて行った。
そして、気になった事を聞いてみる。
「その…こ、答えたく無ければ構わないが、そんなに恥ずかしい事をしてしまったのだろうか僕は……」
一心はまた気まずそうにタハハと笑うと
「いや、多分俺がそういうの慣れてないだけだと思う。なんていうかクラスメイトにボタンを留めて貰ったりとか……は、じめて……でさ、その〜……すげぇガキっぽい俺!!って思ってそこからすげぇ恥ずかしくなっちゃってさ!
それに、誰かに留めて貰うっていう発想が無かったから変に不意打ちみたいな食らった感じが……
……。わ、わかんねぇ……かな?」
また少し顔を赤らめ、照れくさそうに笑いながらチラッと見ると飯田はまた黙って見つめてくるため一心は「だ、だからそんな見るなって!」と言いながらヘルメットを軽く小突き早足で歩いて行ってしまう。
そんな後ろ姿を見ながら飯田は小突かれた部分を痛くもないのに触った。そしてフッと思わず小さく吹き出してしまう。
(無自覚というのはこういうことか……。不意打ちはいつも君がしてくることなのにな……
人懐っこくてスキンシップも多くて恥ずかしがらずに素直に色んな事を言ったり出来て、皆から頭を撫でられても緑谷君に抱きつかれても嬉しそうにするだけなのに……
沢山食べた事に照れたり、ボタンを留めただけであんなに恥ずかしがったり……緑谷君や爆豪君がいつも君を見ている理由が少しわかるような気がする。
見ているだけで自然と笑顔になる
表情、動き一つ一つ何故か目で追ってしまう
君の目に写ってる物や景色と同じ物を見たいと思ってしまう
……。
僕が思っているこれは……この気持ちは……本当に友達として目が離せないだけ……なのか?)
そう考えていると、前を歩いていた一心はクルッと後ろを向き
「早く来ねぇと置いてくぞ?」
ニィッと笑いながらそう言った。
飯田は「すまない!今行く」と声をかけ
(……。出会って間も無いが、きっと自分の兄のように僕は君を【尊敬】しているからだろう)
と密かに思いながら、一心の隣を歩いた。