第16章 忘れられない水曜日 前編
ベシベシと泣きながら床を殴る峰田になんて声をかければいいか悩んでいると、出久が持っているノートの表紙に『一心君用』と書かれた文字が目に入った。
「……俺用?」
俺がキョトンとしながら出久に聞くと、出久は照れたように頬を赤くした。
「えっと!一限目と二限目の授業受けれなかったでしょ?だ、だからみんなの代表で僕が書いたんだけど……その!!分かりやすく書いたつもりなんだけど分かりずらかったらごめんね?!?!分からないところは聞いてくれて大丈夫だから!!」
「本当?!ありがとう!スゲェ助かる!!…てか、代表って?」
飯田がここぞとばかりにズイッと入って来た。
「委員長である俺が本来ならば書きたかったんだが、候補者が多かったからジャンケンで決めたんだ。同じ内容のノートを何冊も貰っても困るだろう」
「そっか!!みんなもありがとな!出久、ちょっとの間これ借りるな」
「うん!!」
出久は大きく頷いた。
「さて、みんな次の授業がそろそろ始まるぞ!席につき準備をしよう!」
飯田の発言に皆は俺に声をかけながら、席に戻って行った。
「言葉君、もしも体調が悪くなったら遠慮なく言うといい!保険室には俺が責任を持って送り届けよう!」
「ありがとう!そんときは頼むな委員長!」
俺がこういうと嬉しそうにしながら飯田は席に戻って行った。
俺は一呼吸置きノートを見つめ、撫でた。
(……皆と話せてすげぇ落ち着いた。日常に帰ってきたんだなって……そう思う。
けど……)
俺はまた胸に嫌な感じを感じ振り払うように出久のノートをパラパラと捲った。
その時、授業と関係ない文字が目に入った。
『僕の勘違いだったらごめん。
君の身に何かあったんじゃないかな?って思ったんだ。言えない内容なら無理にとは言わない。
けど、君の傍には僕が居ることを忘れないで』
その文章の下にはオールマイトの絵と『私が来た!』というセリフがあった。
ジワジワと溢れそうになる涙を堪え、俺はそのノートに出久の絵と『ありがとう』と感謝の気持ちを記した。