第16章 忘れられない水曜日 前編
「へーい…」「わかりました」
俺はなんとも言えない気持ちで返事をし、校長室を後にした。
校長室の扉を閉じ少し歩いたところで俺はクソデカため息をする。
「気持ち切り替えろ」
ため息で俺の気持ちを察した相澤はそう言った。
「分かってるけどよぉ…分かってるけどよぉ…あぁ、クソォ…大声出してぇ…」
「家帰るまで我慢しろ」
相澤はそう言いながら捕縛布をギュッと握った。
「……だな。二人で今日一日頑張って我慢しようぜ」
俺も相澤も校長の様子を見て確信した。
(やっぱりこのヴィランは只者じゃねぇって……
そんな奴を言葉に近付けた……近付けちまった…)
拳に力を入れ俺らはその後黙って廊下を歩いた。
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根津side
「………。今更か」
私はボソッと誰もいない校長室で呟いた。
二人には言わなかったけれど、もうそのヴィランについては察しは出来ている。
『ごく一部の人間』しか知らない言葉君の『あれ』を知っているヴィランは一人だけだ。
さらにきっとまだ上手く扱えない事も察してはいるんだろう。……言葉君すらも人質に取られていると言っても過言じゃないほど危険だ。
「………。」
(おそらく言葉君が出会った人質は彼の仲間。彼の手伝いをする代わりに自分の願いを聞いてもらう…そういう交換条件だったんだろう。)
ここまで推測出来ていても彼の行動に不可解を覚える。
(結局のところ何が目的なのかはわからないけれど……とにかく、私に今出来ることをしよう。
深い深い『悪』が『また』言葉君を包み込まないように……出来ることを……)