第16章 忘れられない水曜日 前編
俺はふらつく足をしっかりと立たせながら重く感じる自転車を起こす。
「......あ」
自転車を乱暴に扱ったせいで、傷がいくつか付いていた。
「.........最あ......。ッ!!」
俺は咄嗟に口を押さえ言葉を飲み込む
「あ、アハハ...このぐらいの傷どうって事ない(最悪だ)家に帰ったら塗装しよう(完璧に直すのは難しい)この凹みも(完全には直せないな)きっと直せるし(プレゼントマイクから貰った大切な物なのに)……うん。
.........。(まだ少ししか乗ってないのに傷つけた)
.........。(プレゼントマイクになんて言おう)
.........あの人が......(飛び出してこなかったらな...)
.........ッ!!!」
俺は口に力を入れ歯をギリッと鳴らすと自分の頬を殴った。
「なんて事考えてんだ俺は!!さっきの人に怪我は無かった!!!良かった!!!ルールは守った!!きっと無事だ!!!ならそれでいいだろ!!!」
ジンジンと痛む頬で気を紛らわせながら個性を使いそう言うと、少しばかりかは心が晴れた気がした。
俺は自転車に跨り、逃げるように急いでその場を離れることにした。
..................。
雄英高校に着いた俺は、自転車を駐輪場に止めた後保健室近くのトイレに向かい手の汚れを洗い流す。ビリビリと染みる痛みに耐えながら何とか洗い軽くハンカチで拭いた後、鏡を見てみると思いっきり殴った頬が腫れて熱を帯びていた。
(......本気で殴りすぎたかなぁ。冷やしてもバレるだろなぁこれ......)
ハァと深いため息を吐きながら、保健室へ向かおうと廊下に出たところで誰かとぶつかる。
「おわ!ごめん!!」「ソーリー!リスナー!」
「「あ」」
ぶつかったのはまたしても会いたくない相手だった。
(プレゼントマイク......)
俺は顔を見られまいと、背け「ごめん!急いでるから!」と早口で言いその場を去ろうとしたけれど、プレゼントマイクにガシッと腕を掴まれた。
「ちょっと待て、言葉......その頬どうした?殴られたのか?」
いつものテンションとは違う低い声色で俺に問う。こういう時のプレゼントマイクは嘘が通じないし嘘を付きたくない......でも、俺には隠し通さなきゃいけない理由がある。