第16章 忘れられない水曜日 前編
俺は女性に満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫!助けるよ!」
俺はザルからいくつか飴を掴み口の中に数個放り込みゴリゴリと噛み砕いた。
ゴクンッと飲み込み、自分の身体の変化を確かめてみるも特に異常は感じられない。飴も変な味はしなくただただ甘いだけ。
俺はまた数個口の中に入れ噛み砕き飲み込む、それを何度も何度も繰り返す。
〘沢山食べてくれて嬉しいよ言葉一心君♪頑張って作ったかいがあったなぁ〜♪どうせなら良い笑顔で食べて欲しいけれど贅沢は言えないね♪〙
黒い機械からは嬉しそうな声が聞こえてくる。
(この人......なんだろ、さっきから言葉の一つ一つがちょっと......嫌だな......)
そんな事を考えていると、ドクンッと心臓が大きく跳ね上がるような感覚がした。
ピタッと動きが止まった俺に女性は不信感を覚えたのか俺の身体にザルをズイッズイッと押し付けてくる。
「ねぇ、どうしたの?早く食べて?ねぇ?ねぇ!!私の事助けてくれるんでしょ?!ねぇ?!」
(そうだ、早く......食べなきゃ......)
ザルから一つ取り出し無理矢理口にねじ込み砕き飲み込む。
体温が上がり、心臓がドクドクと早くなる。
また一つ飴玉を食べれば次は
頭痛と胸のざわめき、体の震え
次に食べれば
湧き上がるような負の感情
俺はフラフラとしながら壁にもたれかかる。
(なん...だ、これ......気持ちが悪い......頭の中がグラグラする......)
女性は俺の身体にまたザルを押し付け催促してくる。
(ダメだ......今俺に近付かないで!!)
女性の催促するキーキーとした声が煩い。押し付けてくるこの感じが鬱陶しく煩わしい。
俺は、目をギュッと閉じ口にギリッと力を込め手でザルを叩き落とした。
(......。ハッ!!俺何してんだ!!)
我に返り目を開け女性に謝ろうとしたけれど、そこには誰も居なくて…道に散らばったはずの飴も綺麗さっぱり消えていた。
(何がなんなんだ......)
ボヤボヤとする頭で考えるも何も思いつかない。むしろ何も考えたくないと思ってしまう。
『この事を今日一日他の人に決して言ってはいけない』
さっきの言葉を思い出し、俺は自分が黙っていれば全て解決するんだとただそれだけを考える。
(......。学校行かないと...)