第16章 忘れられない水曜日 前編
「......俺はどうしたら貴方を助けられますか?」
俺がそう聞くと、肩に込められた力が少し緩くなった気がした。
女性は片手に持っていた青竹ザルを俺にズイッと押し付ける。その中には一つ一つ丁寧に包まれた飴玉が沢山あり、中央に黒い四角い機械がポンッと置かれていた。
zi...zizizi...zizizizizizi
四角い機械から音がしたと思えば次は人の声が聞こえてきた。
〘おはよう、言葉一心くん〙
その声に何故か背筋がゾッと凍りついた。ねっとりと悪意が身体にまとわりつくような嫌な感じ......
「......なんで俺の名前を知ってるんだ?」
〘あぁ、知ってるとも......君も僕を知ってるはずなんだけどなぁ......。あぁ、そうだったね『昔の記憶が無い』んだったね。いやぁ、残念だ。本当に残念だ〙
「.........!!!」
(......記憶が無いことも知ってる!?)
〘本当は君に直接会いたかったんだけどね、感動の再会はとっておこうと思うよ。
.........。
.....はぁ、やっぱりダメだ......君とはずっと話していたくなるなぁ〜〙
(......話すというかずっと一方的に話されてるんだけど)
〘けど、邪魔が入っては困るからね、本題に入ろうか。優しい優しい言葉一心くん、君は今目の前の女性を助けたいんだね?偉いねぇ〜...
助ける方法は簡単だ。僕が丹精込めて作った目の前の飴を身体の限界を超えるまで食べて欲しい......それだけだよ〙
(限界?......何かこの飴玉に練り込まれてるのか)
〘そうだった、大事な事を言わなきゃね。
僕と君との約束事だよ。
一つ目、個性を使うのはもちろん禁止。真心込めて作ったんだから君には個性無しに受け止めて欲しいんだ。
二つ目、この事を『今日一日』他の人に決して言ってはいけない。
三つ目、この後学校に行くこと。
......僕との約束を破るなら......君は賢い子だから分かるね?〙
(今日一日?……どういう事だ?……いや、考えるな……俺はこの条件を飲むしかない……そうだろ?)
俺は女性をチラッと見てみると目からはまた涙を流していた。
「......お、願い......助けて......」
女性は小さな声で俺に助けを求める。
その言葉は嘘もへったくれもない純粋な助けだった。