第15章 一方その頃、緑谷出久は?
「確かに昔も人懐っこい方ではあったけど、今の方が増してるかな?」
(昔の一心君も人懐っこかったけど、僕達に大きな『心の壁』を作ってたなぁ…。今思えば一心君は一心君なりに色々と事情があったんだろうけど、当時の僕はその壁が寂しくて仕方なかった。
君からは僕達に沢山歩み寄ってくれたけど、僕達が一歩歩み寄れば君は必ず後ろに一歩下がって距離を保ってたね……君は僕達の事を沢山知っているのに、僕達は君の事を全然知らなかった。
全然知らなかったけれど…ある日、唯一君の事を知れた時があったんだ。それは、『オールマイト』の映像やグッズを見た時、たまに一瞬だけほんの少しいつもと違う顔をするんだ。君にとってオールマイトがどういう存在で好きなのか嫌いなのか分からなかったけれど、確信した事がある。
君にとってオールマイトは特別なんだって……
そう思ったらなんだか勝手に僕の中で距離が縮んだ気がしたんだ。
それがわかった僕は家にあるオールマイトのグッズを見せたくて遊びに誘ったけど、一心君のお父さんとお母さんは厳しい人みたいでそういう誘いは断るように言われてるって君は申し訳なさそうに笑いながら僕の頭を優しく撫でてくれたよね。
やっぱり実際に縮む事は無い距離に少し悲しくて寂しかったけど君の手の温もりや優しい手つき、そしていつもの笑顔に僕のそういう気持ちは溶けていった。
………。
今の君を誘ったら、きっと笑いながら頷いてくれるのかな)
昔の思い出に浸りながらスマホを見てみるも未だに既読が付いたまま返信が来る気配はない。お昼休みが刻々と過ぎるのと共に僕の心には徐々に焦りが現れる。心臓の鼓動が早くなり、嫌な汗が溢れる。
「緑谷君とりあえずお昼ご飯を食べてしまった方がいい午後持たないぞ!」
「そ、そうだネ…飯田君」
不安と焦りをかき消すために僕は口の中にご飯を詰め込みガツガツと食事を済ませることにした。